New Entry
- 2011/05/28 第一楽章 約束の双子姫(5)
- 2011/03/27 うた歌いのうた
- 2010/06/26 第一楽章 約束の双子姫(4)
- 2010/06/12 第一楽章 約束の双子姫(3)
--------(--)
2011-05-28(Sat)
「予言通りにはさせないよ」 そう言ってくれたキミを、信じてる。
鮮やかな緑色が爆発して、アリスだけでなく、巨体のバンギラスをもその風で吹き飛ばす。アリスの体は簡単に宙へ浮き、そのまま勢いよく地へと叩きつけられる。数秒遅れて、バンギラスも同様に、しかし主の何倍もの体重のおかげでより激しく地面と衝突した。
金色の髪を地面いっぱいに広げ、先ほどの衝撃の影響ではっきりしない意識と闘いながら、アリスは「くぅっ」と小さく唸る。そのまま、手を、バンギラスへとのばす。しかし思ったより距離があり、その白い手は虚しくただ空をきる。遠近法まで狂ったか、とアリスは思わず笑みを浮かべた。
ざ、と砂を巻き上げながら、離れた所からツバメが歩いてくるのが見える。何か叫んでいる。その言葉は自分に向けての言葉だろうか、お荷物さんへの言葉だろうか。
アリスはそっと瞼を閉じる。
ここまで疲れるジム戦は久しぶりだった。数年前に、一度、今と同じようにひどくぼろぼろにされた試合がありましたわぁ、なんて少し思い出に浸る。あれは誰だったか。顔も名前も思い出せない。けれど、すごく素敵なまっすぐな目を――、
「――アリスさんっ、大丈夫っ!?」
ツバメの言葉とほぼ同時に繰り出された容赦のない平手打ちに、アリスは反射的に蹴り返す。「ぐへぇっ」と今にも吐き出しそうな汚い声をあげて、「ごめんなさいごめんなさいもうしません!!!」と忙しそうに一息にツバメは叫ぶ。アリスはそっと瞼を開けた。
そこには、心配そうな顔をした(……と言っても、ついさっきアリスにくらった蹴りが相当効いたのか、若干顔が青白かった)ツバメと、少し離れたところに落ちていたバンギラスの様子をみる大河がいた。
「もう一回聞くけど、大丈夫?」
「…………、バンギラスは」
ツバメの問いに静かに頷きながら体を起こし、パートナーのほうに目を向けた。
「多分、大丈――ゲホッ、ゴホッ」
手で大きく○(まる)を作り、彼女に答えようとしたが――残念、まだ砂嵐は治まっていない。思いっきり砂を吸い込んだ大河は、喋っている途中で豪快にむせた。
「だいじょう、ぶ」
アリスはぼんやりと同じ言葉を繰り返す。だいじょうぶ、大丈夫。遠くでバンギラスが、ゆっくり、ズルッとその巨体を持ち上げるのを見る。だいじょうぶ、大丈夫。
……バンギラスが大丈夫なら、私が倒れるわけには。
「――ツバメさん、続けましょう」
大河のほうを見ていたツバメが、す、と音もなく振りむく。アリスとツバメの視線が合う。
「エナジーボール、すごくよく効きました。あと……あなをほる、ですか? 地面を抉(えぐ)ってバンギラスの体重を利用して沈め、動きを封じる……実にいい作戦でした」
もう効きませんけど、とアリスが屈託なく笑うと、そこまでわかったんだ、すごいじゃん、とツバメも笑い返す。
ごく自然にツバメがアリスに手を差し伸べ、アリスもごく自然にツバメの手を握る。く、とツバメが彼女の手を引っ張って助け起こし、土埃を払ってやると、「じゃ」と手をあげた。
「頑張ろーね、お互い」
そう言って踵を返すと、ツバメは元の場所へと走り出す。すれ違って、バンギラスがアリスのもとへと帰ってくる。アリスと目線を合わせ、主の体調を案ずるかのように、ぐるるるる、と低い唸り声をあげる。アリスは微笑んで、バンギラスを撫でた。
「バンギラス、」
その後の言葉は、バンギラスにしか聞こえなかった。
「アリスさーんっ、いっくよー!」
げほごほっ、とむせながら遠くで手を振るツバメに、アリスが大きく頷いて応える。
ツバメの隣で控えていたキュウコンのシロが、九つに枝分かれした金色の尾を広げ、不気味な気を纏った火球をそれぞれの尾に宿し始める。
バンギラスはその様子を見て、アリスを落とさないように注意しながらも、すかさず強烈な足踏みを始める。
地面が、揺れる。
シロの「あなをほる」で脆くなっていた地は、バンギラスの「じならし」によって簡単に崩れ始める。
「えっ、うそっ、――やぁっ!」
今度はツバメとシロが地面に呑みこまれる番になった。しかも、放とうとしていた火球はシロがバランスを崩したことにより統制権を失い、四方八方、好き勝手な方向へ飛び散った。砂煙が巻き上がる中、轟音とともに生じた深い亀裂に一人と一匹は飲み込まれ、辛うじて残っていた木々には火が燃え移り、勢いよく燃え始める。
「なんだよ、これ……」
一瞬にして地獄に変わったフィールドを見て、大河がぽつりと呟いた。火の粉が降りかかるも、彼は呆然と立ち尽くしている。と、砂煙の向こう側でさらに動きを見せたアリスとバンギラスを見て、大河は顔を蒼くした。
「あ、アリスさ――!?」
大河の声をかき消して、バンギラスが吼える。おおおおお、おおおおおおう。
その声と共に、放たれたのは――全てを無に帰す、「はかいこうせん」だった。
2011-03-27(Sun)
ひとりに飽きた うた歌い
うた歌いは真っ黒な闇に向かって ひとり うたを歌った
大好きな人との思い出を
楽しかった時間を
居心地の良かった空間を
それは 何物にも代えがたい 幸せの記憶
真っ黒な闇に 宝石がひとつ零れ落ちる
うた歌いが歌った数だけ それは静かに滴り落ちる
儚く優しい輝きを帯びて 真っ黒な闇を彩っていく
いつしかそれは天に昇って 美しい夜空となった
うた歌いは ひとりじゃなくなった
うた歌いは真っ黒な闇に向かって ひとり うたを歌った
大好きな人との思い出を
楽しかった時間を
居心地の良かった空間を
それは 何物にも代えがたい 幸せの記憶
真っ黒な闇に 宝石がひとつ零れ落ちる
うた歌いが歌った数だけ それは静かに滴り落ちる
儚く優しい輝きを帯びて 真っ黒な闇を彩っていく
いつしかそれは天に昇って 美しい夜空となった
うた歌いは ひとりじゃなくなった
2010-08-07(Sat)
ヒトにとっては数千年
けれど僕らにとっては瞬き程度の 一瞬の時間
ただ一つの《約束》を守るために、ずっとここまで歩いてきた
“《約束》を知らない多くの人を巻き込んで 守る意味はあっただろうか?”
一人の時間に ふと考える
おそらく 《約束》を守るために巻き込まれた者たちは
理不尽だ と言って怒り
なぜ自分が と言って涙を零し
どうしようもない思いを抱えて 今日まで歩いてきただろう
けれど忘れないでほしいのだ
彼らのお陰で 多くの人が笑っている
慰めにもならないかもしれないけれど
だってほら、今日もいい天気。
けれど僕らにとっては瞬き程度の 一瞬の時間
ただ一つの《約束》を守るために、ずっとここまで歩いてきた
“《約束》を知らない多くの人を巻き込んで 守る意味はあっただろうか?”
一人の時間に ふと考える
おそらく 《約束》を守るために巻き込まれた者たちは
理不尽だ と言って怒り
なぜ自分が と言って涙を零し
どうしようもない思いを抱えて 今日まで歩いてきただろう
けれど忘れないでほしいのだ
彼らのお陰で 多くの人が笑っている
慰めにもならないかもしれないけれど
だってほら、今日もいい天気。
2010-06-26(Sat)
うまれるまえに、やくそくしたのよ。
「うわっ、ひゃあ」
ひんやりとした空気が一瞬にしてめちゃくちゃにかき混ぜられて、砂嵐のおかげでアリスの声どころか、何も聞こえない、見えない。しかもちょっと悲鳴を上げた拍子に口の中にゴミが入って、うぇっと思わず顔をしかめる。
(ろくに指示も出せないよな……)
砂が入らないように、できるだけ目を細くしながら大河は遠くから2人を見ていた。この状況で口を開ければ砂は入るし、息を吸い込めばむせるだろう。周りの状況をつかみ辛いこの天候に、彼女はどう対応するのだろう。
でも、と大河は首を傾げる。
この天候に振り回されるのが“ツバメだけ”なわけがない。バンギラスはともかく、指示する側のアリスは――? 指示を出さないでいくつもりなのだろうか。
「見物だよなぁ」
と、うっかり喋ってむせてしまったのであった。
―
(あなたが春のやり方で来るのなら、)
アリスは静かに目を瞑る。ドレスの裾が、強風に煽られて彼女の白い足が一瞬露わになる。
(私も私のやり方で行きましょう)
「バンギラス、共に」
アリスがひらりとバンギラスの背中に乗っていたころ、ツバメは心の中で舌打ちしていた。
今のツバメの手持ちは、ピカチュウ、キュウコン、イーブイの3匹。そのうちのピカチュウはもう戦えない状態になりつつある。だから出すのはピカチュウ以外。
しかし、なのだ。
(バンギラスっていわタイプ入ってるんだよな〜……、シロはダメ、ユキもダメ………かと言って倒れそうなピカも例に漏れず)
ほのおタイプのシロで向かえば、いわタイプの攻撃であっと言う間にやられてしまうだろう。だが、ノーマルタイプのユキで攻撃したところであまり効果はないだろう。
さて、と。どうする。
ここで負けるのは癪である。
しかし、今のチームの切り札と言ってもいいくらいのユキを、今このタイミングで出すのにも抵抗がある。
ぼろぼろのピカはできるだけ休ませてやりたい。
(シロ、)
ちらっ、と目線を落としてキュウコンのシロが入っているボールを見る。
彼女は主を見上げてニヤリ、と笑った。
〈やってやるよ、お嬢さん〉
赤い瞳を意地悪く細くして、ボールの中でガタガタと動く。
「じゃ、お願いするよ」
ゲホゲホとむせながら、ツバメは白にウインクをした。
―
最初に異変を感じ取ったのは、アリスのバンギラスだった。「ものおとにびんかん」である彼女のバンギラスは、何を聞きとったのか、アリスを振り落とさないように配慮しながら辺りを見回し始める。
アリスもバンギラスの様子が変わったことには気づいたので多少身構えるが、この砂嵐、実はアリス自身困ってしまうくせものだった。次のポケモンを出したのはいいものの、バンギラスの特性が、フィールドの天候を一瞬にして砂嵐に変える、「すなおこし」だということをうっかり、すーっかり忘れていた。アリスはこの天候があまり好きではなく、苦手としているので、この天候はツバメだけでなくジムリーダのアリス自身をも苦しめることになっている。
…ただ、苦しいには苦しいのだが、戦う張本人であるバンギラス自身は砂嵐なんてものともしないので、まぁこの場合は良しとしよう。
『ッ!!』
と突然バンギラスの足元が揺らぎ、一瞬にして大きな口を開けた大地に体の半分をのまれる。何が起こったのかと混乱しつつも、反射的にバンギラスはアリスを落とすまいと左腕で彼女を支え、もう一方の手で穴からの脱出を試みる。しかし右腕だけでは200kgの体を持ち上げられないうえに、穴のふちがぼろぼろと崩れ、余計に埋まってゆく。
「〜っ! バンギラス、構いません!!」
しばらく穴との格闘を見守っていたが、堪え切れなくなったのか、アリスが口の中に砂が入るのも構わず叫ぶ。
「私に構わず、好きなように!!」
その言葉を聞くが早いか、バンギラスは左腕をさっと離して右腕と同様に穴のふちへかけ、ぐ、と両腕に力を込める。
しかし、何に気付いたのか、穴の中を見たバンギラスは、そのままの姿勢で驚いたように一声あげた。
瞬間、大地の裂け目から鮮やかな緑色をした光が、アリスとバンギラスを柔らかに包み込んで、凄まじい音と共に、周りに生えていた木々を巻き込んで爆発した。
2010-06-12(Sat)
化け物に戻るのは、もう嫌だから。
アリスの微笑みが、凍りつく。なぜ、なぜ、どうして。言葉にならない。ラプラスはさっきまで、絶対的に、有利だったのに。
「あのさぁ、」
無意識にラプラスのもとへ駆け寄っていたアリスに対し、ツバメが口を開く。
「アリスさんって、どこの国の生まれ? ……あ、カウクの人……だよね」
え? とアリスはゆっくりと瞬く。そのエメラルドグリーンの瞳が、少し離れたところに立っている少女をとらえる。少女もまっすぐにアリスを見つめ返す。
数秒の、沈黙。
大河はツバメが何を問いたいのかがわからなくて、咳を一つ、控えめにした。
「そう……ですけど。父は夏の国、母は秋の国出身で、……私は秋育ちです」
それが何か……? と怪訝そうに眉をひそめたアリスに、ツバメは「そうかぁ」と頷いた。そして、「私は、春の国の生まれなんだけどさ」とおいたうえで話し始める。
「あのさ、春の国の人って、基本ポケモンとかと仲良しなんだけどさ、うーん、なんて言おうかなぁ……、
うん、バトルのときってあんまりポケモンに指示出さないんだよね」
喋ってると殺されてしまうから、と小声でちろりと付け足すが誰にも聞こえなかった様。
「では、今回の件は貴女のピカチュウが自分の意思でやった、と?」
「んー、まぁなんだろ、アイコンタクト? みたいなのでタイミングは指示した、けど」
アリスのやや強めの口調に、思わず半歩下がって答える。
「アイコンタクト……」
信じられない、というような感じでアリスは復唱する。
ポケモンにはそれぞれに“特性”と呼ばれる能力が生まれつき備わっている。体力が残り少なくなると技の威力が上がるもの、眠りについてもすぐに目覚めるもの、道で便利なアイテムを見つけ拾ってくるもの……など、実に多彩で面白い。
ピカチュウの特性は“静電気”。触れてきたものを麻痺させる能力で、麻痺すれば動きが鈍る。ラプラスは恐らく、ピカチュウの静電気で麻痺状態になったのだろう。
しかし――、
「いつ、技を?」
“静電気”はポケモンを麻痺状態にはするが、倒すほどの威力はない。だが、ピカチュウが技を放ったようにも見えなかった。電撃なんて、使えば光るし音もする。
「んー? いつだろ……。特に意識はしてなかったと思うんだけど、多分あれかなぁ、ラプラスが『道』を作ったときじゃないかなぁ」
うん、多分そうだよ、と一人頷く。
「ラプラスが『道』を通って移動するのがわかっていたなら、電気を流して少しずつ体力削ることもできるしね。少しずつならあまり目立たないし……。
で、たまたま『ふぶき』が発動する前にラプラスが倒れた、って感じじゃないかな」
まぁ私が指示したわけじゃないから、ピカに訊かないと正確にはわからないんだけど、とピカをボールに戻しながら申し訳なさそうに笑った。
「………はぁ」
いまいち納得がいかないが、それでも、ラプラスが倒されたのは事実である。「お疲れ様です」と倒れた友に声をかけボールにしまい、別のボールに手をかける。
くるり、とツバメを振り返ったアリスは――「あっ」と小さな悲鳴をあげて派手に転んだ。
「い、いたた……」
ラプラスがいたのは氷の道の上。当然、そのラプラスに駆け寄ったのだからアリスも今氷の上に居て、それを忘れてターンしたのだから……滑って転ぶ。
どうやら顔を強打したらしく、額と鼻を押さえながらよろよろと体を起こす。数秒、そのままの姿勢で痛みを堪えているようだった。
そして彼女はツバメ――突然の出来事に驚いて固まっている――を見あげ、嬉しそうに笑った。
「ラプラスには、申し訳ないですけれど――私、今、すごく楽しいです。私のポケモンを一体でも倒す人なんて、久しぶりですから」
にっこりと頷いたアリスに、ツバメも(ぎこちない)笑顔を返す。
「楽しみましょう、この時間」
途端に周りの氷が轟音を立てて崩れ、砂嵐を巻き起こしながら次のポケモンが出てきた。可愛らしいアリスに相応しくない、かなりがっしりした大きなポケモン。
「山一つ、簡単に壊してしまうバンギラスです。ツバメさん――、」
どう、でます?


